m_meibun.gif
2004年2月3日更新

bookm_16.gif


book_16.gif
『天気予知ことわざ辞典』

編者・大後美保
発行所・株式会社東京堂出版
初版・1984年6月15日
(C)Yoshiyasu Daigo 1984
ISBN 4-490-10181-3
amazon.co.jpで本を購入

【本文より引用】
「寒に雨なければ夏日照り」「寒に雨なくば夏日照りで凶作」ともいわれる。このことわざは主に関東地方、東海地方、瀬戸内海地方でいわれる。これらの地方は元来寒中の雨が少ないから、とくに雨の少ない年には全く雨の降らないことがある。
寒中に雨が全く降らないような年はどのような年かというと、いつもの年よりも大陸の高気圧の勢力が非常に強く、日本がこの高気圧におおわれ、降雨の原因となる低気圧が日本付近を通ることのできない年である。冬にこのように大陸の高気圧の勢力が強い年の夏には太平洋の高気圧の勢力が強く、この高気圧に日本がおおわれて、晴天が続き干ばつとなる傾向があるのでこのようなことがいわれるのである。たとえば瀬戸内海地方が夏期に干ばつであった明治三七年、同三八年、同四二年、大正三年、昭和九年、同一四年についてみると、明治三八年と同四二年には一、二月に降雪が多かったが、他は寒中に雨が降らなかった。」 (P15「1月」より)


大後博士の数多くの著書は、どれも日常生活に密着する気象を対象にしたものが多く、気象関係者の多くが一度は目にしたことのある本が多い。
ここに紹介した『天気予知ことわざ辞典』は、天気予報に興味を持つ人達に古くから読まれ親しまれているものの一つである。
この本には天気予知に関する膨大な数のことわざが網羅されているが、ここではとりあえず、冬から春の季節を取り上げ、その中から、なるべく広い地域にあてはまるようなものを選んでみた(本文要約)。
「節分に雪が降れば四八日荒れる」(P21)
節分は年の変わる日であるために、この日の天候からその年の天候を占うことわざが言われている。大陸の高気圧が発達して西高東低の気圧配置となって雪が降るときは、地方によってはその後48時間くらいは荒れ気味となることがあるが、節分の雪が48日も先まで影響するようなことはない。

「三寒四温」(P29)
冬の天気変化について三寒四温ということが言われる。三日間寒い日もあれば四日間暖かい日があり、七日周期で天気が変化するというのである。これは冬に大陸に発達するシベリア高気圧の勢力が七日周期で変化することが多く、勢力が強い時にはそれだけ寒冷な空気が流れ出てくるので寒さが厳しく、勢力が弱くなると、冷気の流れである量が少なくなるので寒さがゆるみ暖かくなるのである。

「サクラの花の色うすい年はいつまでも寒い」(P48)
サクラの花の色には開花の頃の天気が大きく影響する。花の主な植物色素は、クロロフィール、キサントファイル、カロチンなどで、気温が低く、太陽光線を受ける割合が少ないときや日照の少ない場合には色素の生成が低下する。花の色が白っぽく、美しいサクラ色の花見を楽しむことができない。こうした時にはサクラの花見だというのにまだかなり寒く、からっと晴れた日が少ない。

天気予報は、最近は数値予報を基礎として飛躍的に進歩しているが、それでも天気が不安定で変化しやすいときなどには、天気のことわざを巧みに活用することも捨てがたい味があるし、この夏が暑いとか豊作年になるなどの予想は案外、ことわざがうまく言い当てることもあるのではないか。
これから先も季節にあわせて折々に、この著書の中から興味深いことわざを紹介していきたい。


【追記:不思議なこと】
前回の「気象の本棚」で、井上治郎編著『極地気象のはなし』を紹介したが、同教授らの日中合同登山隊17人は、1991年1月、6740mの山中で遭難、帰らぬ人となった。その時の遺品が、このたび(2003年11月16日)、大量に氷河の中から発見された。遺品の中には「井上」とはっきり書かれた登山袋も見つかったという。
12年間も氷の下に埋もれていた遺品が、まるで「気象の本棚」の掲載とタイミングを合わせるかのように発見されたのである。不思議と言うほかはない。

森川 達夫(もりかわ・たつお)
1923年 三重県に生まれる。
1945年 中央気象台付属気象技術官養成所(現気象大学校)卒業、
津地方気象台勤務。
1957年 航空自衛隊気象幹部。
1968-1998年 財団法人日本気象協会。
2002-2003年 株式会社ウェザーマップ技術顧問。
気象予報士、技術士(応用理学)。


   冬の日本上空は、このため地球上で最も風の強い地域となっています 『極地気象のはなし』井上治郎・編著 ( 2003年12月2日更新 )
   地図をハサミで切って合わせてみるとほとんどぴったりと重なり合う  『深海底の科学』藤岡換太郎・著 ( 2003年9月30日更新 )
   そのまたとない理想的な大接近が2003年8月27日におこる。  『火星の驚異』小森長生・著 ( 2003年8月4日更新 )
   だから御飯をたくこともできず、パンをたくさん買い込む。  『風の世界』吉野正敏・著 ( 2003年6月19日更新 )
   火星の表面は約マイナス九〇℃と厳寒の世界です  『地球温暖化とその影響 ー生態系・農業・人間社会ー』内嶋善兵衛・著 ( 2003年5月9日更新 )
   富士山頂で最初に観測を行ったのは、一八八〇(明治一三)年である 『富士山測候所物語』志崎大策・著 ( 2003年3月5日更新 )
   ロシア語でいう「光の春」である 『お天気歳時記〜空の見方と面白さ〜』倉島厚・著 ( 2003年1月15日更新 )
   氷点下70度の世界 『雨風博士の遠めがね』森田正光・著 ( 2002年11月28日更新 )
   この風のことをアラビア語でマウシムとよびました 自然景観の読み方6『雲と風を読む』中村和郎・著 ( 2002年11月12日更新 )
   地球は現在よりも平均してセ氏一度以上も暖かかったのである 中公新書845『太陽黒点が語る文明史』桜井邦朋・著 ( 2002年10月8日更新 )
   大きい光の球が雷雲から出て来て、空を舞ひ歩いた 岩波新書46『雷』中谷宇吉郎・著  ( 2002年8月29日更新 )
   鳶と油揚げ ランティエ叢書6『寺田寅彦 俳句と地球物理』角川春樹事務所・編  ( 2002年7月1日更新 )
   日本の大事な雨期は梅雨である 『気候変動と人間社会』 朝倉正・著  ( 2002年5月30日更新 )
   3月の風と4月の雨が、5月の花をつれてくる 『暮らしの気象学』 倉嶋 厚・著  ( 2002年4月30日更新 )
   春の4K 『お茶の間保存版 お天気生活事典』 平沼洋司・著  ( 2002年4月4日更新 )

本文からの引用、表紙の写真の掲載につきましては、著者または出版社の許諾をいただいております。