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2005年3月18日更新





講談社+α新書130-1C
『平安の気象予報士 紫式部』(1)


著者・石井和子
発行所・株式会社講談社
初版・2002年11月20日
(C)Kazuko Ishii 2002
ISBN 4-06-272166-X
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【本文より引用】[第三章 めぐる季節のなかでー春から夏へ]
「太陽暦と旧暦(太陰太陽歴)」P60〜
「私達が今使っている暦(カレンダー)は、太陽暦(グレゴリオ歴)です。地球は自転しながら、太陽のまわりを一年かかって一周します(一太陽年)。これを公転といいますが、この動きをもとに作られた暦が太陽暦です。この太陽暦の歴史は古く、BC四〇〇〇年頃(BC二七〇〇年頃とも)の古代エジプトにまで遡ります。」「その頃のエジプトでは、すでに一年を三百六十五・二五日としたシリウス暦(恒星暦)が使われていました。」「日本でこの太陽暦が使われはじめたのは、つい最近の一八七三(明治六)年一月一日からなのです。それまでの日本では、ずっと「旧暦」が使われていました。」「紫式部の時代には、宣明歴(せんみょうれき)という唐(とう)の時代の暦が使われていました。」

「 二十四節気とは」P63〜
「…二十四節気は、一年を通じてほとんど月日のめぐりの変わらない太陽の動き(一太陽年)を二十四等分して、季節の名前をつけ、太陰暦にあてはめていったものです。毎年、太陽はきまった時期にきまった黄道(こうどう)(地球がかりに止まっていると考えたときの太陽が動く一年の軌道)を進みます。太陽は、春分のときは黄道〇度のところ、夏至は九十度、秋分が百八十度のところといったぐあいです。」

「平安人の季節感」P66〜
「…立春も春分も立夏も立秋も、今の季節感に比べると少し早いように思います」「平安の人々は、風でも光でも春からの小さなサインを感じたら、そのときからがもう春なのです。今よりも、めぐってくる季節のサインに敏感で、自然に対する神経ももっと研(と)ぎすまされていたことでしょう。」

「立春」P69〜
「新暦の二月四日(三日)は立春で、この日から暦の上では春となります。」「初音(はつね)の帖の冒頭の文章です。        
〜年たちかへる朝の空の景色 (中略)雪間の草、若やかに色づき初め、いつしかと気色(けしき)だつ霞(かすみ)に、木の芽もうちけぶり〜
…源氏三十六歳の、豪華絢爛(ごうかけんらん)たる六条院の新春です。王朝の粋(すい)を集めた雅(みやび)の極みとでもいいましょうか 。」 「紫の上の春の御殿では、梅の花がほころびはじめ、いい香りを送ってきます。まさにこの世の春、栄華を極めた源氏にふさわしい新年となりました。」「さて、「初音」の帖では、元日と二日はのどかな天気に恵まれましたが、やはりこの頃はまだ寒い日も多かったようです。」
「正月が幾日か過ぎ、源氏が末摘花(すえつむはな)のところへ顔を出すと、末摘花は赤い鼻をますます赤くして、ひどく寒そうに震えていました。(中略)末摘花のたった一つの取り柄だった、美しくたっぷりとした黒髪も今では薄くなり、おまけに作者の紫式部は残酷にも、その彼女の髪に「滝の流れも恥じ入るほどのたくさんの」という表現で白髪を加えています。」

「立春と雪」P72〜
「この立春の頃には、雪が降っています。「初音」の帖では、一月十四日頃(今の二月半ば過ぎ)、新年の「男踏歌(おとことうか)」の行事がおりからの雪とともに美しく描かれています。(中略)袖をひるがえしながら舞う貴公子たちの姿や、これを見物しようと集まった姫君たちが御簾(みす)からのぞかせる美しい袖口の色合い。催馬楽(さいばら)の歌声と笛の音。そして雪と月の六条院の庭…。なんとも美しい風情ある情景が描かれています。」
「しかし、ここまで読んで、私は「あれっ?」と思ったのです。(中略)「月が照っていて、かつ雪の降っている情景」なんてありえるのでしょうか?」

「紫の上と桜」P84〜
「『源氏物語』には、印象的で美しい桜の場面がたくさん出てきますが、紫式部は、紫の上の生涯を一貫して桜とのかかわりのなかで描いています。(中略)「若紫」の帖の、幼い紫の上と源氏の出会いのシーン。
〜三月のみそか晦日なれば 、京の花、さかりはみな過ぎにけり。山の桜は、まだ盛りにて、入りもておはするままに、霞のたたずまひも、をかしう見ゆれば〜
都で散ってしまった桜が、山では、春霞のなかで満開となっています。」 「また「若菜(わかな)・下」では、六条院の姫君たちが総出で合奏する女楽(おんながく) (女たちだけの合奏会)があります。ここでも紫の上は(中略)あたりいっぱいに匂うばかりのようで、紫式部は、紫の上を桜よりもすばらしいと絶賛しています。」
「 ところが、この女楽の翌日、紫の上は病にたおれ、以後は病気がちの日々が続きます。」「 紫の上は、女楽から四年後、まるで露(つゆ)が消えるようにはかなく亡くなってしまいます。四十歳でした。」

「朧月(おぼろづき)」P84〜
「…春の月が、霧や空の高いところにある薄い雲(巻層雲(けんそううん)や高層雲)にかかってぼんやりするのが朧月で、春特有の言い方です。」「巻層雲は、遠くにあった温暖前線がだんだん近づいて、お天気がこれから下り坂に向かうとき、まず初めに現れる雲で、上空約五千から一万三千メートルの高いところにできる、細かい氷の結晶です。この雲がかかると、月はヴェールか、かさをかぶったように見えます。」
「「末摘花」の帖で、源氏は荒れた屋敷にひっそりと琴を友に暮らしているという姫君にあこがれ、
〜この頃の朧月夜に、しのびて物せむ。まかでよ〜
と、十六夜(いざよい)(満月の翌日の夜)の朧月夜に出かけていきます。(中略)たぶん、この晩の雲は巻層雲のような薄い雲ではなく、もう少し厚い高層雲だったのでしょう。」


気象庁から桜の開花予想がはじまった。春から夏へ、季節の歩みに合わせて、この本の、季節のページを開いた。
「源氏物語」は、与謝野晶子、谷崎潤一郎から始まって数多くの文豪による現代語訳が出版されてきた。異色なところでは大和和紀の漫画「あさきゆめみし」もある。
そうした中で、石井氏のこの本は、気象学の観点から平安時代の気候や日々の天気を現代的に分析し、絢爛たる「源氏物語」の絵巻を今様に垣間見せて、 紫式部の自然科学者としての類いまれなセンスを解いてくれる。そういう意味でこの本は、一味違う輝きを感じる。

今回はシーズンにあわせて、第三章「春から夏へ」の一部を紹介するに留まったが、見どころはほかにも数え切れない。
はじめの第一章、第二章には、「源氏物語」が生まれた当時の気候や寒暖の変動、京の都のたたずまいと王朝貴族たちの華やかなイメージなど、興味をかき立てる情景が、千年の時空を超えて色鮮やかに表現される。60ページにわたるこの二つの章は、気象学、考古学そのほかの広い観点からも、丹念に読んでおきたい貴重なコーナーである。
次回も続いてこの著書をお楽しみ下さい。(気象予報士・森川 達夫)

   オホーツク海より南の海では流氷は生まれない。『流氷 白いオホーツクからの伝言』菊地慶一・著 ( 2005年1月19日更新 )
   かつて日本の山にも氷河があったことを物語っている『山の自然学入門』小泉武栄、 清水長正・編 ( 2004年11月15日更新 )
   わたしは「野分たちて」を「台風一過」と考えました『平安の気象予報士 紫式部』石井和子・著 ( 2004年9月21日更新 )
   山に鉢巻がかかれば晴れる『天気予知ことわざ辞典』大後美保・編 ( 2004年7月28日更新 )
   琵琶湖の水を1分間で沸騰させる熱量である やさしい天文学『星と宇宙の謎』前川光・著 ( 2004年6月4日更新 )
   だれも光を追い越せない やさしい天文学『星と宇宙の謎』前川光・著 ( 2004年4月12日更新 )
   寒に雨なければ夏日照り 『天気予知ことわざ辞典』大後美保・編 ( 2004年2月3日更新 )
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   氷点下70度の世界 『雨風博士の遠めがね』森田正光・著 ( 2002年11月28日更新 )
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   大きい光の球が雷雲から出て来て、空を舞ひ歩いた 岩波新書46『雷』中谷宇吉郎・著  ( 2002年8月29日更新 )
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