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2002年10月8日更新

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中公新書845
『太陽黒点が語る文明史』

〜「小氷河期」と近代の成立〜


著者・桜井邦朋
発行所・株式会社中央公論社(現・中央公論新社)
初版・1987年7月15日

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【本文より引用】
「太古の昔から、地球環境は、私たちが今みているようなものであったわけではない。よく知られているように、少なくとも四回の氷河時代が過去にあり、地球の一部が氷で閉ざされたことがある。また、恐竜の栄えた時代が、現在に比べてずっと温暖湿潤であったことも知られている。」
「今から8000年ほどさかのぼった時代から以後の4000年ほどの間は、地球は現在よりも平均してセ氏1度以上も暖かかったのである。」
(P8「1「小氷河期」の起源と発達」より)

地球温暖化、エルニーニョなど現代の気象環境の話題が多い中で、少し視点を変えて、この本から太陽活動と過去の気候大変動の歴史を眺めてみた。
櫻井博士は宇宙物理学の権威であり、かつてガリレオの黒点観察記録を利用して太陽の自転速度とその緯度変化の推定を行っている。
この著書は、過去における太陽活動の変化と小氷河期を中心とした気候変動の様子がメインテーマになって書かれており、まことに興味深い一冊である。

上に抜き書きしただけでは物足りないので、下にあえて一部を要約させていただいた。

( 一部要約)
「1600年代半ば頃、イギリスを中心にヨーロッパではペストの大流行と、気候の寒冷化による飢饉が襲った。1640年代から1710年代にかけての70年間は寒冷化が甚だしく、この期間をマウンダー極小期(Maunder Minimum) という。小氷河期をもたらした原因は太陽活動が異常に衰退したことにある。
太陽のウオルフ黒点数※(相対黒点数)は11年周期で増減を繰り返しているが、この期間は太陽表面に黒点がほとんど見られず、そのことを発見したマウンダーの名を取ってマウンダー極小期と名付けられた。小氷河期に入るとヨーロッパでは農業は衰退して飢餓に見舞われ、その上にペストが大流行して人々は死の恐怖に直面した。
不安や恐怖の中で人々はいかに巧く死ぬかを考えるようになり、それが人間観へと発展してやがてイタリアルネッサンスが生まれた。ルネッサンスはアルプスを越えてフランス、ドイツに広がり、さらに宗教改革へと展開していった。」
太陽黒点の運動が気候変動の引き金となって、疫病などの災いをもたらし、ひいては人々の思想にまで影響を及ぼす。ドラマティックな連鎖反応を、歴史上の偉人たちの名を挙げながらつぶさに描いた本書は、地球温暖化が声高に叫ばれる今だからこそ、読んでおきたい。
(気象予報士・森川達夫)

参考までに、最近のウオルフ黒点数(※)は以下のグラフの通りである。
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※ウオルフ黒点数…黒点群の数を10倍し、それに観測した黒点の数を加えた値
(参考) 理科年表 平成14年2002 国立天文台編(丸善)より

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