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2003年1月15日更新

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『お天気歳時記〜空の見方と面白さ〜』


著者・倉嶋厚
発行所・株式会社チクマ秀版社
初版・1997年5月8日
ISBN 4-8050-0300-6

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【本文より引用】
「二月の光は誰の目から見てももう確実に強まっており、風は冷たくても晴れた日にはキラキラと光る。厳寒のシベリアでも軒の氷柱から最初の水滴の一雫(ひとしずく)が輝きながら落ちる。
ロシア語でいう「光の春」である。
ヨーロッパでは二月十四日のバレンタインの日から小鳥が交尾を始めると言われてきた。日本でも二月にはスズメもウグイスもキジバトも声変わりして、異性を呼んだり縄張りを宣言する独特の囀(さえず)りを始める。ホルモン腺を刺激して小鳥たちに恋の季節の到来を知らせるのは、風の暖かさではなく光の強まりなのである。俳句歳時記の春の部には「鳥の妻恋」という季語が載っている。

(P21「「お正月」考 ---熊の寝返り、鳥の妻恋、光の春---」より)

本書のあとがきでは、
「私のこれまでの著書は、気象学や日本の季節について私が学んだ知識を、読者の方々に共有していただく目的で書かれたものであった。したがって、それらの著書の中では、「私」が表に出ることを極力避けてきた。が、本書においては、かなりの紙幅で「私」を表に出させていただいた。もしも読者が約六十年間気象の仕事に打ち込んできた男の人生への思いに興味を持ち、共感して下さったとしたら、こんな嬉しいことはない。」
と、述べられています。目次には「お天気キャスター覚え書き」「私の知らない母」「熱愛の噂」などの項目が並び、戦時中の若き日の記憶から、気象庁を退職され、お天気キャスター、エッセイストとして現在にいたるまで、まさに"気象人"として歩んでこられた氏の人生がかいま見える構成となっています。

倉嶋先生が気象の道に入られたのは、第二次大戦の敗色が濃くなりつつあった頃です。
体が弱く、軍事教練では「役立たず」の見本とされていたこと。中央気象台付属の養成所へ進み、熱心に学んだこと。十九歳、徴兵を目前に控え、死を覚悟して見た戸隠高原の紅葉…。こうしたエピソードを読むにつけ、倉嶋先生の気象エッセイがつややかな「生」のきらめきに満ちているのは、厳しい時代を、気象への熱意とともに生き抜いてきたからこそではないか、と思うのです。
ちなみに「光の春」はよく耳にする言葉ですが、もともとはロシア語を倉嶋先生が翻訳されたということはあまり知られていないのではないでしょうか。
「気象人」読者のもとすみたろうさん、リクエストありがとうございました。(森田正光)


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