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〜観測およびモデルによる再現〜

2002年4月26日更新
【観測開始以来最も多く黄砂を観測】 2002年4月15日 気象庁発表資料より

気象庁の観測では2002年1月以降の黄砂の延べ観測日数(*)が全国集計を開始した1967年以降の最高値を記録しました。(4月13日までに962日)。これまで最も多かったのは昨年(2001年)の865日でした。一昨年(2000年)も748日観測されており、3年連続して多くの黄砂を観測したことになります。
今年の黄砂の特徴は西日本、日本海側の地域に加えて、北日本、特に北海道の各地においても繰り返し観測されたことです。


*黄砂の観測日数とは、ある日に1つのの観測地点で黄砂を観測した場合に1日と数え、ある日に10の観測地点で黄砂を観測した場合には10日と数えます。延べ観測日数は、全国123地点の気象台及び測候所における観測日数を積算したものです。




【気候モデルによる大規模黄砂現象の再現】2002年4月8日報道発表 九州大学応用力学研究所・東京大学気候システム研究センター

昨今、東日本や北日本まで飛来するような大規模黄砂現象の発生が注目を集めています。この度、九州大学応用力学研究所(鵜野伊津志教授・竹村俊彦助手)と東京大学気候システム研究センター(中島映至教授)の共同研究グループは、大気浮遊粒子状物質(エアロゾル)の分布をシミュレーションするエアロゾル気候モデルを用いて、このような大規模黄砂現象の再現に成功しました。
使用したのは、エアロゾルの発生・輸送モデルであるSPRINTARS (Spectral Radiation‐ Transport Model for Aerosol Species;主開発者 竹村助手)を気候システム研究センターの大気大循環モデルに組み込んだもので、様々な種類のエアロゾルの発生・移流・拡散・化学反応・雨や重力落下による除去といった一連の輸送過程を計算します。また、エアロゾルの日傘効果や温室効果も計算することができます。
今回対象とした期間は、いずれも大規模な黄砂現象が観測された、昨年4 月6 日から14 日と今年3 月19 日から28 日です。図1 は、今年3 月の大規模黄砂現象のシミュレーション結果であり、ゴビ砂漠で発生した黄砂が北京等の中国都市部を覆い(19 日)、それが日本へ飛来し(22 日)、太平洋を横断し(25 日)、北アメリカ大陸へ到達(28 日)する様子が詳細に再現されています。


図1:大気中の黄砂の質量
(左上)2002 年3 月19 日 (右上)同22 日 (左下)同25 日 (右下)同28 日 (単位:mg/m**2)

さらに注目すべき点は、ミクロン・サイズの黄砂粒子と共に、サブミクロン・サイズの大気汚染エアロゾルも太平洋を横断していることが明らかになったことです。大気汚染エアロゾルには炭素性エアロゾルや硫酸塩エアロゾル等がありますが、これらはいずれも小粒子であるため、質量で見ると黄砂粒子と比較して小さいものとなります。しかし、大気の混濁度の指標である可視光の波長(550nm)でのエアロゾルの光学的厚さで見ると、場合によっては大気汚染粒子の混濁度の方が大きく、人為起源汚染物質が太平洋を横断することがわかりました。図2 は、今年3 月の大規模黄砂時のエアロゾルの光学的厚さのシミュレーション結果を、黄砂粒子と大気汚染粒子とに分けて示したものです。発達した低気圧の強風に伴いゴビ砂漠で黄砂が巻き上げられると同時に、東アジア大陸沿岸では人為起源大気汚染粒子が大気中に放出され続けています(3 月20 日の図を参照)。そして、高気圧辺縁及び低気圧に伴う強い西風に乗って、黄砂粒子と大気汚染粒子とが混ざりながら太平洋を横断、北アメリカ大陸へ到達しています(3 月27 日の図を参照)。これらのシミュレーション結果は、人工衛星や地上からの観測とも良く一致しています。

図2:エアロゾルの光学的厚さ
(左)大気汚染粒子(右)黄砂粒子。上から2002 年3 月20 日、同27 日。
矢印は高度約1km の風向・風速を示す。L は低気圧の中心、H は高気圧の中心を示す。


大気中のエアロゾルは、太陽光を散乱・吸収したり、雲の状態を変える性質を持っていたりするため、気候に影響を及ぼすと考えられています。これらの直接的な指標となるのが光学的厚さであり、その値の大きい空気が太平洋を横断していく様子がシミュレートされたことは、大気汚染が非常に広範に及んでいることを示しています。また、近年の東アジアの急激な経済発展に伴い人為起源汚染物質の排出量が年々増加しているため、大気汚染粒子の流出は今後深刻化することが懸念されます。


黄砂現象の頻度や規模が近年増加している背景は一般的には、
・大陸内陸部の気温及び地温の高温化により雪解けが早まり、黄砂の舞い上がる時期が早くなった
・大陸内陸部の土壌水分量が低下してきた
・温暖化に伴い気圧配置が北へ押し上げられ、強風帯が黄砂発生域にかかる時期と黄砂発生域がより乾燥する時期が重なるようになった
・大陸内陸部の砂漠化が進行している
等の複合的な要因があると考えられています。詳細な原因は、今後の研究によって明らかになってくるものと思われます。


九州大学応用力学研究所 竹村俊彦助手のコメント
大気浮遊粒子状物質(エアロゾル)は、気体とは異なり、半径0.01ミクロンから100ミクロン程度の大きさを持っています。したがって、大気中に滞留できる時間が 平均数日程度であるために分布に偏りがあり、数値シミュレーションをすることは非常に難しいです。しかし、今回の大規模黄砂や大気汚染粒子の流出を詳細にシミュレーションできたことにより、広範囲の大気環境の悪化の様子を把握することができ、 環境対策等に役立てることができると思います。一方、エアロゾルは日射を散乱したり吸収したりするので、大気のエネルギー収支のバランスが崩れて気候に影響を及ぼ します。また、エアロゾルは雲の凝結核になるために、増加すると雲水粒子の粒径が 小さくなり、雲の反射率を高めたり雨を降りにくくしたりする効果があると考えられ ています。このような気候に対する効果もシミュレーションできるようになってきましたので、まだ定量的に不確定な要素が多いエアロゾルの気候影響の評価にも貢献できると考えています。



   暖候期予報の解説 ( 2002年4月1日更新 )

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