●太平洋赤道域の海面水温はほぼ全域で平年より高い状態が続いた。大気では40日前後の短周期の変動が卓越した。海洋表層(海面から深度数百m までの領域)の水温には、比較的強い負偏差域、正偏差域が東部、中部でそれぞれ、見られた。
●予測期間中にエルニーニョ現象が発生する可能性は低いものの、中部を東進中の表層水温の正偏差域の動向に注意を要する。
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2004年1月の海面水温(上)と平年偏差(下)
(上)赤:28℃以上 (下)青:平年より低い
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2004年1月の状況 |
◆エルニーニョ監視海域(北緯4度〜南緯4度、西経150度〜西経90度)の1月の海面水温の基準値(1961〜1990年の30年平均値)との差は+0.6℃。5 か月移動平均は引き続き+0.5℃となった。
◆南方振動指数は-1.0。(貿易風の強さの目安。正の値は貿易風が強いことを示す。)
◆1月の太平洋赤道域の海面水温は西経150 度付近に負偏差が見られたものの、ほぼ全域で平年より高く、東経175 度および西経115 度付近では平年より1℃ 以上高かった。
◆太平洋の赤道に沿った表層(海面から深度数百mまでの領域)水温は、東経160 度から西経160 度の深度80m から深度180m にかけては+2℃を超える正偏差が現れた。また、西経125 度から西経100 度の深度100m 付近では-2℃を超える負偏差が見られた。
◆太平洋の赤道に沿った海面から深度260m までの平均水温平年偏差の経度-時間断面図では、12 月末に西経160 度から西経130 度に見られた-0.5℃を超える負偏差域が東進し、1 月下旬に西経120 度から西経95 度に達した。一方、12 月末に東経160 度付近に現れた+1℃ 以上の正偏差域は東進し、1 月下旬には日付変更線から西経145 度で見られた。
◆太平洋赤道域の対流活動は、インドネシア付近から南インド洋中部にかけて平年より不活発で、南太平洋収束帯は平年よりも東へ寄っていた。
また、先月に引き続き明瞭な赤道季節内振動が見られた。これに伴い大気下層では、太平洋赤道域の西部から中部にかけて、1 月前半は西風偏差、後半は東風偏差が現れた。
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今後の見通し(2004年2月〜2004年8月) |
太平洋赤道域の海面水温はほぼ全域で平年より高い状態が続いており、1月の監視海域の海面水温の基準値(1961 〜1990 年の30年平均値)との差は+0.6℃であった。大気では12月以来、明瞭な赤道季節内振動に伴う40日前後の短周期の変動が卓越している。中部太平洋赤道域では、12月前半に見られた東風偏差に対応して表層水温の負偏差域が現れ、これが東進して1月後半には東部に達した。このことにより、監視海域の海面水温の基準値との差は向こう1か月程度は一旦低下すると考えられる。
一方、12月後半から1月前半に西部から中部にかけて見られた西風偏差によって生じた表層水温の最大+2.5℃を超えるような強い正偏差域が、1月に中部を東進しており、これが1〜2か月後に東部へ到達すると、監視海域の海面水温の基準値との差は再び上昇すると予想される。過去には、同程度の規模の正偏差域が東部へ到達してエルニーニョ現象の発端となった事例もある。しかし、1月下旬に西部から中部で現れた東風偏差によって、表層水温の正偏差域は弱められつつあり、新たに負偏差域が西部に生じつつあることを考えると、この正偏差域の東部への到達がエルニーニョ現象発生の引き金となる可能性は低いと思われる。
エルニーニョ予測モデルは、向こう1〜2か月間は監視海域の海面水温の基準値との差が持続し、その後次第に増加すると予測している。しかしながら、予測モデルは春を越える予測精度が他の時期ほど高くないので、このことを考慮する。
以上のことから、監視海域の海面水温は、向こう1か月程度は基準値より高めながらも基準値に近い値をとり、その後は基準値よりやや高い値で推移するとみられる。現時点では予測期間中にエルニーニョ現象が発生する可能性は低いものの、活発な大気の短周期変動により下層で再び西風偏差が強まる可能性もあるので、特に中部を東進中の表層水温の正偏差域の動向には注意を要する。
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エルニーニョ監視海域の月平均海面水温の基準値との差(上)と南方振動指数(下) (1994年1月〜2004年1月)
太線は5か月移動平均値
赤:エルニーニョ現象 青:ラニーニャ現象 発生期間
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気象庁では、エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差の5か月移動平均値が
6か月以上続けて+0.5℃以上となった場合をエルニーニョ現象、
6か月以上続けて-0.5℃以下となった場合をラニーニャ現象としている。 |