●太平洋赤道域の海面水温は中部を中心に7月に引き続き平年より高かったものの、中部の対流活動は平年並だった。赤道季節内振動が太平洋を通過したことに伴う東西風の変化に対応して、海洋表層(海面から深度数百m までの領域)では、7 月に続き8 月半ばに西部で新たな正偏差が現れた。
●エルニーニョ監視海域の海面水温は、秋から冬にかけて基準値(1961〜1990 年の30 年平均値)よりやや高い値で推移するとみられる。予測期間中にエルニーニョ現象が発生する可能性は現時点では高くないものの、今後の推移によってはエルニーニョ現象の発生に至ることも考えられる。
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2004年8月の海面水温(上)と平年偏差(下)
(上)赤:28℃以上 (下)青:平年より低い
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2004年8月の状況 |
◆エルニーニョ監視海域(北緯4度〜南緯4度、西経150度〜西経90度)の8月の海面水温の基準値(1961〜1990年の30年平均値)との差は+0.4℃。
◆南方振動指数は-0.5。(貿易風の強さの目安。正の値は貿易風が強いことを示す。)
◆8月の太平洋赤道域の海面水温は、東経165 度から西経125 度にかけて平年より0.5℃以上高かった。+1℃ 以上の正偏差は西経150 度から西経135 度にかけてと、日付変更線付近、西経170 度付近及び西経160 度付近に点在して見られた。一方、東経125 度付近および西経100 度以東では平年より0.5℃ 以上低かった。
◆太平洋赤道に沿った海面水温は、7 月に引き続き中部で正偏差が卓越していた。8 月初めに西経120 度以東で見られた負偏差域は、8 月後半にやや縮小した。
◆8月の太平洋の赤道に沿った表層(海面から深度数百m までの領域)水温は、西経155 度から西経135 度にかけての深度70m 以浅と西経130 度以西の20℃ から23℃ の等温線を中心に、+1℃以上の正偏差が見られた。一方、西経100 度以東の深度70m 付近で−1℃以下の負偏差が見られた。
◆太平洋の赤道に沿った海面から深度260m までの平均水温平年偏差の経度-時間断面図では、7 月末に西経160 度から西経120 度で見られた+1℃以上の正偏差域は、8 月上旬に消滅した。8 月半ばに東経165 度付近で新たに現れた+1℃以上の正偏差域は東進し、8 月末にはその東端が西経145 度付近に見られた。一方、7 月末に西経95 度付近で見られた−0.5℃以下の負偏差域は、8 月には消滅した。
◆対流活動は、フィリピン付近からその東海上で平年より活発だった。太平洋赤道域では、インドネシア付近で不活発だった他は、ほぼ平年並だった。
◆赤道季節内振動に伴う対流活発域の東進に対応して、太平洋赤道域の大気下層では、8 月前半に中部から東部で東風偏差、西部で西風偏差が強まり、8 月後半には中部から東部にかけて西風偏差が卓越した。
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今後の見通し(2004年8月〜2005年3月) |
8 月の太平洋赤道域の海面水温は、中部で正偏差、東部で負偏差が持続し、西部では負偏差が現れた。大気下層では、季節内振動の通過に伴って、8 月前半に中部から東部で東風偏差、西部で西風偏差が強まり、8 月後半には中部から東部にかけて西風偏差が卓越した。これに対応して、海洋表層では7 月に中部を東進していた水温の正偏差が弱まりながら東部に達し、その結果、この海域の負偏差はほぼ消滅した。8 月半ばには西部で新たな正偏差が現れ、中部を東進しつつある。
表層水温のこの正偏差は、今後強まりながらさらに東進し、東部の海面水温偏差を増大させる可能性が高い。しかし、季節的に東部の海面水温が低いことから、大気との相互作用は起きにくいと考えられる。また大気の状況に関しては、中部の対流活動が活発ではなく、表層水温の正偏差をさらに強める平均的な貿易風の弱まりが顕著ではない。したがって、東部の海面水温偏差の増大がそのまま持続する可能性は低い。
エルニーニョ予測モデルは、エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差が、秋から冬にかけて次第に増加し、その後やや減少する傾向を示している。しかし、予測モデルは海面水温をここ数か月実際より高めに予測する傾向があることを考慮する。
以上のことから、監視海域の海面水温は秋から冬にかけて基準値よりやや高い値で推移するとみられるものの、現時点では予測期間中にエルニーニョ現象が発生する可能性は高くないと判断される。
ただし、太平洋赤道域の海面水温は中部で依然として平年より高く、西部の負偏差が明瞭になっていることから、中部で対流活動が活発となり、西風偏差が持続しやすい状況にある。中部での対流活動の活発化を契機に、エルニーニョ現象の発生に至ることも考えられるので、今後の大気・海洋の状況には十分注意を要する。
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エルニーニョ監視海域の月平均海面水温の基準値との差(上)と南方振動指数(下) (1994年1月〜2004年8月)
太線は5か月移動平均値
赤:エルニーニョ現象 青:ラニーニャ現象 発生期間
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気象庁では、エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差の5か月移動平均値が
6か月以上続けて+0.5℃以上となった場合をエルニーニョ現象、
6か月以上続けて-0.5℃以下となった場合をラニーニャ現象としている。 |