●太平洋赤道域の海面水温は、+0.5℃以上の正偏差域が東部に拡がった。しかし、貿易風の状態や中部の対流活動は依然として平年並であった。
●エルニーニョ監視海域の海面水温は、基準値(1961〜1990年の30年平均値)より高い現在の値から次第に低下し、春には基準値よりやや高い値に落ち着くとみられる。予測期間中にエルニーニョ現象が発生する可能性は現時点では高くないものの、今後の推移によってはこのままエルニーニョ現象の発生に至ることも否定できない。
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2004年11月の海面水温(上)と平年偏差(下)
(上)赤:28℃以上 (下)青:平年より低い
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2004年11月の状況 |
◆エルニーニョ監視海域(北緯4度〜南緯4度、西経150度〜西経90度)の11月の海面水温の基準値(1961〜1990年の30年平均値)との差は+0.9℃。
◆南方振動指数は-0.7。(貿易風の強さの目安。正の値は貿易風が強いことを示す。)
◆11月の太平洋赤道域の海面水温は、ほぼ全域で平年より高く、東経165度から西経155度、西経145度付近、西経135度付近および西経100度付近で平年より1℃以上高かった。
◆太平洋赤道に沿った海面水温は、11月に入って+0.5℃以上の正偏差域が東部に拡がった。
◆11月の太平洋の赤道に沿った表層(海面から深度数百m までの領域)水温は、20℃ の等温線を中心に広い範囲で正偏差が見られた。特に、西経170度から西経150度の深度150m付近および西経95度以東の深度40m付近で+2℃以上の正偏差が見られた。
◆太平洋の赤道に沿った海面から深度260mまでの平均水温平年偏差の経度-時間断面図では、9月以降ほぼ全域で正偏差となっている。10月上旬に東経160度付近に現れた+1℃以上の正偏差域は東進し、11月末には西経155度から西経120度で見られた。
◆太平洋赤道域の対流活動は、インドネシア付近で平年より不活発、東経75 度付近及び東経165 度付近で平年より活発になった以外は、平年並であった。
◆赤道季節内振動に伴う対流活動の東進は不明瞭だった。太平洋赤道域の大気下層では、上旬を中心に東部で西風偏差が卓越した。下旬にはこの西風偏差が弱まり、中部で東風偏差が見られた。
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今後の見通し(2004年12月〜2005年6月) |
太平洋赤道域の海面水温や表層水温は、9月以降ほぼ全域で正偏差となっている。中部を中心に見られていた+0.5℃以上の海面水温の正偏差域が、11月に入って東部に拡がった。その結果、エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差は、10月の+0.5℃から+0.9℃に増加し、9月の5か月移動平均値は+0.5℃になった。
大気については、6月以降インドネシア付近で平年より対流活動の不活発な状態が続き、11月は東経165度付近で対流活動が平年より活発となった。しかし、貿易風の状態や中部の対流活動は依然として平年並であった。
東部の海面水温偏差の急激な増大は、下旬に到達した表層水温の正偏差の影響もあるが、上旬に東部で見られた西風偏差が主因だと考えられる。しかし、この局地的な西風偏差は下旬にはすでに弱まっており、表層水温の正偏差の影響がわずかに残るものの、東部の海面水温偏差の増大は次第に収まると予測される。また、11月に活発化した東経165度付近の対流活動が、高い海面水温の大気への応答として持続するものかどうかは、今後さらに見極める必要がある。
エルニーニョ予測モデルは、監視海域の海面水温の基準値との差が、冬の間+1℃前後で推移し、春以降は更に増加すると予測している。しかし、予測モデルは海面水温をここ数か月間実際より高めに予測する傾向があることを考慮する。
以上のことから、監視海域の海面水温は基準値よりも高い現在の値から次第に低下して、春には基準値よりやや高い値に落ち着くとみられる。東部の海面水温偏差が増大したにもかかわらずこれに対応する明瞭な変化が大気に認められないことから、予測期間中にエルニーニョ現象が発生する可能性は現時点では高くないと判断される。
ただし、潜在的に中部の対流活動が活発になり貿易風が弱まりやすい状態は依然続いており、今後の推移によってはこのままエルニーニョ現象の発生に至ることも否定できないので、大気・海洋の状況を引き続き注意深く監視していく。
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エルニーニョ監視海域の月平均海面水温の基準値との差(上)と南方振動指数(下) (1994年1月〜2004年11月)
太線は5か月移動平均値
赤:エルニーニョ現象 青:ラニーニャ現象 発生期間
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気象庁では、エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差の5か月移動平均値が
6か月以上続けて+0.5℃以上となった場合をエルニーニョ現象、
6か月以上続けて-0.5℃以下となった場合をラニーニャ現象としている。 |