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2003年5月9日更新

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ポピュラーサイエンス
『地球温暖化とその影響 ー生態系・農業・人間社会ー 』


著者・内嶋善兵衛
発行所・株式会社裳華房
初版・1996年10月10日
内嶋善兵衛(C)1996 Printed in japan
ISBN 4-7853-8652-5


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【本文より引用】
「その輝きのために、詩や歌のなかで「宵の明星」とか「明けの明星」とかよばれる金星は、地球によく似た大きさの惑星です。地球は太陽から約一.五億キロメートルの空間を周回していますが、金星はその約〇.七二倍の軌道を回っています。このため、金星は地球の受ける太陽放射の強さの一.九一倍、すなわち六五三W/m2の強さの日射エネルギーを受けています。」

「金星の輝きが強いということは、より多くの太陽光を反射していることを示しています。(中略)裸の地球と同じ方法で裸の金星の地表近くの温度を計算すると、約五四℃となります。しかし、惑星探査からえられた金星の地表近くの温度は約四五〇℃という灼熱状態です。(中略)金星の大気は地球大気の一〇〇倍の濃さで、しかもほとんど二酸化炭素です。ですから、金星大気の温室効果は非常に強く、金星の地表面には大気層から多量の赤外放射が与えられ、地球では考えられないような高温の世界になっているのです。」

「一方、焔星ともよばれる赤い惑星ー火星は、金星と同じ組成の大気をもっていますが、その濃度は金星のそれの一〇万分の一にすぎません。太陽から遠いこと(約二.三億キロメートル)と温室効果がないことから、火星の表面は約マイナス九〇℃と厳寒の世界です。」

(P28〜「2章 温暖化のしくみと原因物質 金星大気と暴走温室効果」より)

火星の話が出てきたので、ことのついでに今年8月の地球への火星大接近を紹介しよう。
今はまだ遙かに遠い東の空に、かすかに赤い色と見せているにすぎないが、8月27日には5876万キロまで接近し9月には夜半前に東の空に昇ってくる。見える大きさが木星より小さいが、天体望遠鏡なら表面をある程度観察できるようである。

これほど接近するのは、前回が99年前の1924年、そしてこの後は47年後の2050年、まことに貴重なチャンスである。(国立天文台・天文ニュース616 より)

本題に戻ろう。
内嶋先生は宮崎公立大学学長で、地球気候や農業気象学の権威として数知れぬほど幾多の著書がある。
この著書は、地球温暖化とは何か、その原因物質は、から始まって、気候・生態系・人間社会への影響など広い範囲に及んでいる。
誠実な人柄を反映して懇切丁寧に書かれており、ほとんどのページに図や表が出てくるので理解しやすい。アジアやアフリカの砂漠化にも触れており、興味あふれる読み物でもある。難しいところは飛ばし読みしてもいいし、いっぱしの物知り気分になれるところもうれしい。(気象予報士・森川達夫)


国立天文台の渡部潤一・助教授によると、火星が地球に最も接近するのは8月27日、午後7時ごろだそうですね。(5月8日付 読売新聞より)
ここまで火星が近づくのは6万年ぶり、ネアンデルタール人が見て以来のことだとか。ちょうど夏休みだし、自由研究のテーマにもいいのではないでしょうか。

ところで、本書には宮沢賢治の『グスコーブドリの伝記』を取り上げた「宮沢賢治と温室効果」という項もあります。
『グスコーブドリの伝記』では、「イーハトーブ」を襲った大冷害を解消するため、火山を人為的に噴火させ、温室効果で地球全体の気温を上昇させようとする目論みがなされます。

本当にこんなことが起こったら、厳密に言えば火山灰が日射をさえぎる”日傘効果”によって気温は下がってしまうのですが、そのことよりも、宮沢賢治が持ち備えていた温室効果ガスについての知識や、科学的な視点は、あらためて評価されるべきだと思われてなりません。
本書では、この『グスコーブドリの伝記』を「多くの日本人に大気の温室効果を最初に教えた」として高く評価しています。(森田正光)


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