S君はマッサージ師である。よくテレビを見る。
そのS君から、「低気圧が八丈島付近を通ると大雪になるのですか?」と聞かれた。
「どこで聞いたの?」というと「いくつかの天気予報で気象予報士(複数)が言っていた」という。
1月17日、東京では雪が降った。積もる事はなかったが、その前日の天気予報で各局は大雪の可能性を伝えた。その時のことを彼は言ったのだった。
「八丈島付近を低気圧が通ったら大雪になるのか?」
こたえは、「そんな事はない」である。
ただ、いまから30年も40年も前、まだ気象衛星もない時代、先人の予報官は雪の予想をするときに、様々な経験則をあみだした。
八丈島云々も、その経験則の一つである。理由ははぶくが、この経験則に理がないわけではない。
しかしこの時代にあって、一つの原因で雪になるかどうかが決まるなどと普通の人でもそんな単純な論理に納得するはずがない。S君が私に訊ねたのも、その「ウソくささ」を嗅ぎとったからに他ならない。
手前味噌になるが、私は低気圧前面に寒冷な高気圧があること、空気が乾燥しているので気化熱が奪われ、少々気温が高くても雪になりやすいと説明した。外れる可能性があることも述べた。
くだんのS君は、「森田さんのが一番分かりやすかった」と言ってくれた。本人前に否定的な事はいえないだろうが、少なくともS君は空気の乾燥が雪かどうかの判定に影響があることを、理解してくれた。
視聴者はこうして成長し、天気キャスターもまた、それを上回る解説を提出しなければならないのだ。
知ったかぶりで、30年前の先人の苦労の経験則をかっぱらってはいけないと思う。これ、自分自身にも言っていることなので、同業者の方、気を悪くなさらないで下さい。