5. 秋は気温低く、早かった冬の訪れの影響
9月は平穏であったが、10月には台風21号や低気圧の影響、10月下旬からは真冬並の寒気の影響、11月には北日本では早々に大雪になるなど冬の訪れの早い秋となった。新聞見出しも「早い初雪・秋はどこへ」「残暑一転はや冬将軍到来」などと書いた。
寒さ早く商戦活況:9月のデパート商戦は前半の残暑の影響などで6ヶ月連続のマイナス、全国地区6141億円で前年比1.2%減、東京地区同1.3%減。10月も前半の高めの気温などで低調、全国地区6752億円で前年比3.5%減、東京地区同3.9%減。11月は早い冬の訪れで商戦は活発になり、冬物衣料や暖房器具は好調、ガス床暖房は50%増、灯油21%増、歳暮9%増など活発であったが、全国地区全体では7412億円で0.2%減、東京同0.9%減であったが、マイナス幅は減少した。
稲作作況指数平年並の101:農水省発表の2002年産、稲作の全国の作況指数(平年100)は「101の平年並」となった。東日本や西日本では暑かったが、北日本では8月の低温など全国的には並止まりであった。
送電線倒壊等台風21号被害:関東・東北地方を縦断した台風21号は、茨城県で送電線の鉄塔を倒壊させるなど市民生活の影響を与えた。送電線の鉄塔は7基が倒壊、2基が折れた。東電では降雪による倒壊は1986年に神奈川県で19基あるが台風では未経験とのこと。
また、台風により千葉県、茨城県や東北地方の農業被害も大きく千葉では塩害、ビニール温室の破損など60億円、茨城30億円など。
広島マツタケ凶作で高値:広島産の秋の高級マツタケが夏の高温少雨の影響で最悪の状態である。100グラム15000円という高値で進物用の注文を確保するのも容易でない状態。
マイワシ激減:日本近海のマイワシの漁獲量の減少に歯止めがかからない。1988年の449万トンをピークに2001年は18万トンと最盛期の4%まで落ち込んだ。2002年はさらに落ち込み前年の24%となった。マイワシは70年ぐらいの周期で増減するという説などあるが、真相は分からないという。
6年ぶり秋の黄砂飛来:11月11日から12日にかけて西日本、北陸、北海道など全国76地点で黄砂が観測された。秋に黄砂が観測されるのは6年ぶりである。
|
6. 天候デリバティブ
天候デリバティブ前年の2.4倍:冷夏・長雨などの天候の異変に伴う企業の減収リスクを軽減する金融商品「天候デリバティブ」がここ1年で日本でも急成長している。「天候デリバティブ」は1997年にアメリカで最初の商品が売り出され、まだまだ歴史は浅いがその成長力は高い。日本には1999年に初めて登場した。
日本経済新聞社によると現在の世界の規模は、契約高(想定元本ベース)が2001年度は約5000億円で1997年度からの累計が1兆円を超えた。日本の市場規模は前年比2.4倍の約130億円となった。また、商品の種類の多様化、小口化が利用の裾野拡大に貢献しているとのことである。
日本での本格化は2000年度からで、保険会社が販路拡大を狙って地方銀行と提携をはじめた時期と重なる。地方銀行の仲介によって地方の小売業、レジャー企業が利用しはじめた。2001年度には契約を見合わせてきた企業も2002年には本格的に利用してきた。国内大手6社の取扱い件数は約850件となり前年の7.5倍となった。扱うのは金融機関だけでなく東京電力、大阪ガスなど夏場の気温変動によるリスクが生まれる企業の相互の契約もある。
世界的には暖冬や冷夏など気温に関する契約が約90%だが、日本の場合は降雨や降雪に関係する契約が多いのが特徴になっており、気温と降雨が半々という。また、日本の特徴として中小企業の利用促進を狙い50万円程度の小口商品の販売に力を注いでいる。
2002年の例として、サッカーの清水エスパルスが契約した試合開催日に10ミリ以上の雨が降ると補償金を受け取るもの。初詣の客の減少補償、海運会社の強風による欠航補償(1年間に風速15メートルを超えた日数が3日以上)、ゴルフ場の降雨と雪による来場者の減少補償、エアコンの冷夏による売り上げ減少補償などがある。
なお、「天候デリバティブ」とは、あらかじめお金(オプション料)を払っておけば、冷夏・猛暑、暖冬・多雨などの天候不順(気象変化)に伴う損失リスクを補償する金融派生商品である。アメリカで1997年に開発された。企業や季節商品を扱う店では業績を安定させる効果があると人気になっている。
|
7. 欧州の100年来の洪水被害
2002年の夏に欧州を襲った洪水は各方面に多大な被害と混乱をもたらした。洪水による死者109人、避難者数10万人、「東欧の宝石」と呼ばれるチェコのプラハの浸水など文化遺産にも多大な被害がでている。被害額は200億ユーロ(約2兆3000億円)以上とドイツの保険会社は算出した。チェコ国防省では総額20億ドル(約2360億円)に上る新型ジェット戦闘機の購入を破棄して洪水対策費に振り向けた。ドイツでは所得減税を1年先送りして、それで浮く財源を使って総額69億ユーロ(約8000億円)を復興費に充てた。洪水被害で欧州の新車販売が低迷、8月の販売は7%減となるなど経済に大きな影響がでた。
|
平沼 洋司(ひらぬま・ようじ)
気象庁職員。本庁、沖縄、成田空港、網代、宇都宮、福井の各気象台や測候所で勤務。気象予報士。
著書:「お天気経済学」(恒友出版)、「気象情報活用術」(PHP研究所)、「お天気生活事典」(朝日新聞社)、「空の歳時記」(京都書院)、「空を見る」(筑摩書房)等
|
|
|
→「気象の本棚」第1回
春の4K 『お茶の間保存版 お天気生活事典』
|