特別コラム「昔の予報官」

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四川大地震(2)
2008.5.19
森川 達夫(株式会社ウエザーミロ代表・気象予報士)
5月12日に発生した中国四川省の大地震は、19日現在で死者が3万人を超え負傷者は22万人。上海での北京五輪の聖火リレーも中断した。

気象庁精密地震観測室(長野市)の観測によれば、地震の波動は日本を通過して地球の表面を2度にわたって周回していたことがわかった。本来はマグニチュード8以上でしか起こりえない現象とされ、地震の激しさを物語る。

同観測室によると、地震は12日15時28分に発生、通常の地震波に続いて周期の長い地震波(最大周期約2分)が15時41分に、その後さらに18時10分と20時40分にも観測された。地表から10kmまでの深さを伝わる「表面波」である。

エネルギーの大きさは当初は「阪神」の20倍と言われたが、その後もっと強い30倍とわかった。

マグニチュードについて、気象庁は、長野・静岡両県下のひずみ計から判断して当初から M8.0と発表。中国でははじめM7.8、その後修正して8.0とした。 マグニチュードが0.2大きくなると地震のエネルギーは約2倍になる。

今回の地震断層は、長さが約300キロメートルに達し、震源から50キロメートル付近の地点では最大13メートルのずれがあった。これは実に阪神大震災の6.5倍の規模に相当する。ずれた断層が片方の断層の上に乗り上げる形の「逆断層」であった。(5月19日)
中国、 四川の大地震
2008.5.14
森川 達夫(株式会社ウエザーミロ代表・気象予報士)
中国四川省で5月12日、すさまじい大地震が起きた。阪神・淡路大震災の20倍のエネルギーを持つといわれる。
50万棟が倒壊、1万人以上の生命が失われた。四川省成都の西にある竜門山断層が動いたためとみられる。
周辺では過去に何度も大地震が起きている。33年M7.5、70年M7.8 および73年のM7.6である。

今回の震源地付近では、中国側のユーラシアプレートとインド側のインド・オーストラリアプレートが衝突しており、中国南部から東南アジアにかけて幾つもの山や谷の褶曲(しわ)が走っている。
5000万年前に2つのプレートが衝突してヒマラヤ山脈ができ、1300万年前以降にインドプレートが沈み込んで活断層ができ地震が起きるようになったとされる。

大陸の移動に関しては、ウェーゲナーの大陸移動説が世界に注目され、その後1960年の掘削調査に裏付けされて動かぬ事実となった。オーストラリア大陸はインド-オーストラリアプレートの一部として1年に7cmの速さで北上しており、5000万年の後にはアジア大陸と衝突合体するという観測がある。

地震のエネルギーは、地震計の針の揺れから計算するマグニチュード(M)と、断層の大きさやずれから算出するモーメントマグニチュード(Mw)があるが、Mwの方が正確に表現される。
四川地震のMwは7.7、阪神・淡路大震災はMw6.9で四川の方が20倍近く大規模である。

今回は地震波が遠くまで弱まらずに伝わり、北京、上海など1500km離れたところでも震度2〜3の揺れがあった。地震波が地表から深さ35kmまでの浅い層を地殻外に漏れずに、光ファイバーを伝わるように伝わったためといわれる。
それに対して、阪神・淡路大震災の場合は、500kmの距離にある東京で震度は「1」、1000km離れた北海道では揺れは全く観測されなかった。中国の地盤が均質であるためといわれている。
台風の特別観測(T-PARC2008)
2008.5.12
森川 達夫(株式会社ウエザーミロ代表・気象予報士)
先週、サイクロンの直撃を受けて、ミャンマーでは100万人以上が家を失い、死者は2万人を超えた。(2008.5.12現在)

18年前の1990年にはバングラデシュで約14万人が死亡するという大災害があった。
これらの災害には防潮堤や建築構造の不備も指摘されてはいるが、それにしてもサイクロンや台風に対する防災情報の重要性がいまさらながら痛感される。

5月9日、気象庁は台風の特別観測についての計画を発表した。
台風の進路予想の精度をあげるために、航空機で台風に近づいて気象データを観測をするものである。世界気象機関(WMO)研究の一環として7月からアメリカや韓国などとの協力のもとに行われる。

台風の進路は気象台や気象観測船、高層観測ゾンデなどで得られた風、気温、気圧などのデータをもとにして計算される。ところがわずかな観測値の変化で進路の計算が大きく変化してしまうエリア「高感度域」なるものが通常は存在している。

今回の特別観測は、台風周辺の広い範囲を対象にしてそれら高感度域のデータを解析し、進路予測の誤差を小さくすることを狙いとしている。
  
実験には、アメリカの海軍研究所(NRL)・海洋大気庁(NOAA)、韓国の延世大学に加えて中国、カナダ、イギリス気象局も参加して、7月下旬から10月上旬まで続けられる。

それぞれに担当領域が決められている。アメリカは台風の発生する太平洋と、台風が衰弱して温帯低気圧になるアリューシャン海域を担当する。韓国は日本の気象庁と協同で南西諸島周辺を担当する。偏西風によって進路が大きく変化する領域だからである。

気象庁では航空機をドイツからチャーターして観測員5名が搭乗する。
1回の飛行時間は4時間、パラシュートにドロップゾンデ(観測器機)を取り付けて航空機から10〜15個を降下させ、気温・湿度・風・気圧を測定する。
それと同時に海洋気象観測船や、気象衛星ひまわり7号の観測回数も大幅に増加することが計画されている。
2007年5月の光化学スモッグは越境汚染
2008.4.28
森川 達夫(株式会社ウエザーミロ代表・気象予報士)
昨年5月8〜9日に日本中の広い範囲で高濃度の光化学スモッグが発生した。
この2日間で21の都府県で光化学スモッグ注意報が発令され、
大分・新潟の両県では観測史上初めての注意報となった。

国立環境研究所のシミュレーションによれば、この光化学スモッグの原因には中国で発生した大気汚染物質の影響が25%以上関係しており、九州地方では原因の度合いが40〜45%にもなっていることがわかった。
4月23日に発表され、越境汚染の様相があきらかになった。
 
光化学スモッグは工場や自動車から排出された窒素酸化物などの大気汚染物質が、太陽からの紫外線を浴びることによって光化学オキシダントが生成される現象である。
気温の高い夏の晴れた日に多発するのが一般的だ。
5月という早い時期に今回のように広い範囲で高濃度になるのは極めて注目すべき現象である。
 
国立環境研究所の研究グループは、中国や日本における大気汚染物質の排出量や、
当時の風向・風速、気温、日射量などのデータをもとに独自の計算モデルを用いて計算した。
その結果オキシダント濃度の高い時間帯には中国からの汚染物質の影響が日本全域(北日本を除く)で25%以上を占めることが確認された。
 
気象庁発表の季節予報では、5-7月の気温を各月とも全国的に「平年並みか高め」と予想している。
「平年並み」とは過去30年の平均値のことであり、地球温暖化の進んでいる現在、余程のことがない限りそれより高くなるのはむしろ当然と言えよう。

今年の夏も越境汚染の影響で光化学オキシダントが高くなるのではないか、気がかりなことではある。
南極にちなんで
2008.4.14
森川 達夫(株式会社ウエザーミロ代表・気象予報士)
◆南極変色 地球異変−気温−上昇
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南極大陸から南米に向けて細長く突き出た南極半島では、
夏になると藻類が大量発生し、氷河をピンクや緑色に染めている。
3月上旬、夏の終わりの時期に降ったのは雪ではなく雨だった。
日中の気温も氷点下にはならなかった。
  
南極半島は低緯度に張り出しているため、他の南極地域より暖かい。
氷河からの雪解け水で真っ黒なぬかるみができ、
海の方からは湯気が絶え間なく上がっている。
直射日光のあたる地面の温度は高く25℃にもなる。

南緯65度にあるベルナツキー基地における1940年代からの観測では、
この50年間に年平均気温が約2.8℃も上昇した。
地球全体の平均気温の上昇率100年に0.74℃と比べてはるかに急激な上昇である。

一方、南極の氷床の厚さは平均2445メートル、
世界中の氷の体積の9割を占めている。
国連の政府間パネルIPCCは、07年の報告書で
「南極氷床が縮小している可能性はかなり高い」と報じている。

最近の観測では、西南極で氷床が急速に薄くなっており、
ここの氷が全部溶ければ海面が5〜6メートル上昇するといわれている。

◆「しらせ」帰る
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南極観測船「しらせ」が、4月12日東京港に帰ってきた。
25年にわたる南極航海の最後の花道である。

「しらせ」は1983年に就航、「宗谷」「ふじ」につづく3代目の観測船で、全長134メートル。
厚さ1.5メートルの氷を割りながら時速1.9キロで走行する世界最強レベルの砕氷船である。

この1年間の観測では広範な氷床調査が行われた。
氷床と岩盤の間の水脈は、すでにロシアのボストーク基地の下に
琵琶湖より大きな湖があることが分かっている。
そこで新たな湖の発見と、光も到達しない世界の生態系と生命進化の謎に取り組んだ。
さらに、氷層の厚さの変化を調べることで地球温暖化の予兆を把握し、
温室効果ガスの測定をおこなってきた。
 
「しらせ」の後継船は今年11月の就航に向けて、舞鶴の造船所で建造が進んでいる。
氷床との衝突に対する配慮、大型ヘリの増強などの改善のほか、
画家や音楽家教員など一般人の乗船も検討されているそうである。

東京晴海埠頭からの出航は毎年11月14日の定例である。
今年もその日が穏やかな晴天でありますように。
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