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2003年12月2日更新

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『極地気象のはなし』

編著・井上治郎
発行所・技報堂出版株式会社
初版・1992年5月25日
ISBN 4-7655-4383-8
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【本文より引用】
「北半球の夏を特徴づけるアジア・モンスーンの成立には、ヒマラヤ・チベットの大山塊の、大気に与える熱的効果が非常に重要な役割を果たしています(村上、一九八七など)。その熱的効果とは、対流圏のまん中に突き出した四〇〇〇メートル以上の高い高原・山地の表面からの顕熱輸送と、この地域の活発な対流活動に伴う潜熱の解放による大気加熱です。特にモンスーン最盛期には、後者の役割がモンスーン循環の維持に大きく貢献しています。」
(P125〜「ヒマラヤのモンスーンと降水」より)

「モンスーン期のヒマラヤ高地では、山谷風循環が非常に発達しています。実際には、山風は非常に弱く、ハージュンのような谷間では、谷沿いに上がってくる谷風がほぼ一日中吹き続け、夜間はただ風が弱まるだけです。(中略)ヒマラヤ斜面沿いの夜昼を問わぬ谷風は、この大気収束を補償する大気循環の一部をなすものと考えられます。(中略)日中は、この谷風に加えて強い日射を受けた山稜付近の大気が不安定となり、地形性の積雲対流が発達して強い降水をローカルにもたらします。一方、夜間は、山稜付近は放射冷却で冷え、ローカルな下降気流が生じますが、これと大規模なスケールで起こっている谷風とが谷間で緩やかに収束することにより、谷間の雲と降水をもたらすと考えられます(Ageta,一九七六)。」
(注:ハージュン:チョモランマ(8848m)の南西15km付近にある谷間の地名(高さ約5000m、氷河がある)
(P129〜「山谷風循環と降水」より)

「冬のヒマラヤ上空には、大ヒマラヤ山脈の南面沿いに、一万メートル付近の対流圏上部を中心に、毎秒五〇メートルを越すジェット気流が吹いています。ヒマラヤの八〇〇〇メートルを越える高峰には、冬の間、風下側に尾を引いたような(山)旗雲がなびくことが多いですが、これは上空の強いジェット気流の存在を示しています。北半球を取り巻く偏西風のジェット気流は、冬にはちょうどヒマラヤ・チベット高原の大山塊にぶつかる位置にまで南下してきますが、その一部は、チベット高原を迂回するようにヒマラヤ山脈沿いに流れ、日本上空で再び北回りのジェットと合流します。冬の日本上空は、このため地球上で最も風の強い地域となっています。」
(P141「ヒマラヤに吹く大風ージェット気流がもたらすおろし風ー」より)

編著者 井上治郎(京都大学防災研究所)は、日中共同登山隊長として中国梅里雪山に登山中、1991年1月登山隊全員とともに消息を絶ち帰らぬ人となった。
極地の代表である南極とチベット・ヒマラヤは地球上でもっとも大きな山塊であり、ことに後者はその高さゆえにアジアモンスーンの熱源として、大気大循環の障害物として、気候の変動に大きな影響をあたえている。
本書は、現地における貴重な気象観測の体験を基礎にして、ヒマラヤモンスーンと降水、夏の雪と氷河の関係、ヒマラヤに吹く風と風力エネルギーなどについてまとめられている。同時に、南極についても、オゾンホールはいうに及ばず、気温、風、地吹雪、氷河の変動など幅広い研究が述べられている。
チベット・ヒマラヤの気候は、いうまでもなく、モンスーンや梅雨をはじめとして、日本の気象とは切っても切れない密接な関係にある。この書を通してじっくりと「世界の屋根」ヒマラヤの空気に触れ、日本の空を考えてみるのも面白い。

森川 達夫(もりかわ・たつお)
1923年 三重県に生まれる。
1945年 中央気象台付属気象技術官養成所(現気象大学校)卒業、
津地方気象台勤務。
1957年 航空自衛隊気象幹部。
1968-1998年 財団法人日本気象協会。
2002-2003年 株式会社ウェザーマップ技術顧問。
気象予報士、技術士(応用理学)。


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