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2004年7月28日更新





『天気予知ことわざ辞典』

編者・大後美保
発行所・株式会社東京堂出版
初版・1984年6月15日
(C)Yoshiyasu Daigo 1984
ISBN 4-490-10181-3
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【本文より引用】
「山に鉢巻がかかれば晴れる」「山が鉢巻をしたように山の中腹から八号目にかけて山のまわりをぐるりととりまいた雲が発生することがある。こうした雲が見られる時には晴れるということが主に夏にいわれる。天気がよい日には、山の斜面が日射であたためられて、その上の空気が軽くなり、山肌に沿って上のほうへ昇ってゆく。このような谷から山頂に向かって吹く谷風が強くなる。
この谷風がある程度以上高いところへ吹きあがると、気温が冷えるために空気中の水蒸気が凝縮して細かい水滴となり、層積雲や積雲が発生することとなる。これが遠くから見ると鉢巻雲として見えるのである。(後略)」 (P116「8月」より)

「夕虹三日の照り」「「夕虹三日の照り」あるいは「朝虹は雨、夕虹は晴」ということが各地でよくいわれている。夏の天気のよい日の夕方に雷雨がよく発生することがあり、この雷雨が通り過ぎた後などに美しい夕虹が見られる。夏の雷雨は熱雷であって、太平洋高気圧におおわれ天気がよく、暑い日の夕方に発生することが多い。
これは夏の強い日射で地面があたためられて、局地的に強い上昇気流が起るからである。したがって、夏にしばしば夕虹が見られるような時には、太平洋の高気圧が例年に比べて著しく発達する年であり、こうした年にはこの高気圧にさまたげられて日本の上を低気圧が通ることができず、そのため本格的な雨にめぐまれないで日照りとなりやすいのである。(後略)」 (P122「8月」より)


7月中旬には、新潟、福井で梅雨末期の集中豪雨による大水害が発生した。また関東各地は連日猛暑で、20日には千葉県牛久で40.2℃、東京39.5℃、21日は甲府市で40.4℃など想像もできない高温を記録した。
これらの気象異変がどうして起きたのか。もとを辿れば、太平洋高気圧の、例年とは異なる振る舞いに原因があった。熱帯の海面上で暖められた大気は上昇したのち北側の中緯度地方に下降していわゆる太平洋高気圧となる。
今年はフィリピン沖の海面水温が平年より0.3℃高かった。わずかな温度差のように見えるが、上空の対流活動への影響は大きかった。太平洋高気圧が強まって日本列島の南半分に高温な空気が流れ込み、梅雨前線を北に押し上げた。この前線に向って高気圧の縁を湿った空気が流れ込み、あの豪雨渦を引き起こした。さらに、高気圧が西に偏ったため、日本海の上空には時ならぬ北西の風が吹き、これが山越えの「フェーン現象」となって関東に熱風をもたらした。
今年と似たような気圧配置は10年前の1994年にもあった。明治以来もっとも暑いといわれた夏である。その前年が冷夏であったことも今年と共通している。

さて、今回の「本棚」は春に続いて同じ本を2回紹介した。「観天望気」を主体とした天気予知の長年の伝承をじっくりと味わってみるのも意義があるのではないか。一つ残念なことは、今夏のような極端な猛暑や洪水災害を予知するようなことわざは見出せなかった。今年の気象異変がそれほど特異だったということである。被災地の一日も早い復興をお祈りするばかりである。(気象予報士・森川 達夫)

   琵琶湖の水を1分間で沸騰させる熱量である やさしい天文学『星と宇宙の謎』前川光・著 ( 2004年6月4日更新 )
   だれも光を追い越せない やさしい天文学『星と宇宙の謎』前川光・著 ( 2004年4月12日更新 )
   寒に雨なければ夏日照り 『天気予知ことわざ辞典』大後美保・編 ( 2004年2月3日更新 )
   冬の日本上空は、このため地球上で最も風の強い地域となっています 『極地気象のはなし』井上治郎・編著 ( 2003年12月2日更新 )
   地図をハサミで切って合わせてみるとほとんどぴったりと重なり合う  『深海底の科学』藤岡換太郎・著 ( 2003年9月30日更新 )
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   だから御飯をたくこともできず、パンをたくさん買い込む。  『風の世界』吉野正敏・著 ( 2003年6月19日更新 )
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   大きい光の球が雷雲から出て来て、空を舞ひ歩いた 岩波新書46『雷』中谷宇吉郎・著  ( 2002年8月29日更新 )
   鳶と油揚げ ランティエ叢書6『寺田寅彦 俳句と地球物理』角川春樹事務所・編  ( 2002年7月1日更新 )
   日本の大事な雨期は梅雨である 『気候変動と人間社会』 朝倉正・著  ( 2002年5月30日更新 )
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