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「ドボラック法による台風観測の問題点について〜台風は本当に昔より弱くなったのか〜」森田正光(株式会社ウェザーマップ)・渡辺正太郎(慶應義塾大学 学部生)

2005年5月16日 気象学会2005年度春季大会にて発表
1. 強い台風は少なくなった?

「ここ最近、中心気圧が900hPa以下の台風をほとんど見なくなった気がする」 こんな疑問から調査を始めました。

図1は、最低中心気圧が920hPa,910hPa,900hPa以下になった台風の数の5年移動平均です。

これを見ると、80年台後半以降、920hPa以下の強い台風が急に減少し、特に900hPa以下の台風はほとんど出現しなくなっています。

本当に強い台風は減ったのでしょうか?

そこで、我々が注目したのは、観測方法の変化です。




2. ドボラック法への疑問
台風の観測は、以前は飛行機で台風の中心を直接観測する手法が中心でした。
しかし、1987年の台風11号を最後に、飛行機観測はほとんど行われなくなっています。

それ以降、観測の中心は気象衛星画像から推測する「ドボラック法」へ移行しました。気象衛星が撮影した雲画像をもとに台風を分類し、雲バンドの大きさや雲の温度、発達や衰弱具合も考慮しながら、 中心の気圧や中心付近の風の強さなどを決める手法です。

強い台風が減少し始める時期はちょうど、観測方法が「ドボラック法」に移行した時期と重なります
そこで、ドボラック法以前と以後の台風のデータを比較してみることにしました。

※ 88年以降で最低中心気圧900hPa以下の台風は以下の5つ
 □ 90年19号 890hPa ・・・この時は臨時に飛行機観測を行った
 □ 91年23号・91年28号 895hPa
 □ 92年30号・98年10号 900hPa  → 98年10号が最後で、ここ6年はなし


図2は、 1971〜87年(ドボラック法以前)と、1988〜04年(ドボラック法以後)、それぞれの台風の中心気圧の分布を示したものです。

気象庁のベストトラックデータ(1971〜2004)のうち、JTC03,09,15,21時のものを用い、中心気圧の分布を10hPaごとに示しています。

これを見ると、ドボラック法以前(黒線)と比べ、ドボラック法以後(白線)は、

○ 900hPa台以下は明らかに減少
○ 930hPa台〜960hpa台が増加
○ 980hPa以上が減少


していることがわかります。

紙面の都合上省略していますが、1951〜70年も1971〜87年と似た分布をしています。


以上のことから、
   『ドボラック法では弱い台風は強く、強い台風は弱くあらわす』
という傾向があるのではないか、と考えています。

さらに最近5年間の分布(2000〜2004年:図2の赤線)を見ると、この傾向はいっそう顕著に見られます。



3. 弱く?解析していた例
1997年11月6日(25号)
沖ノ鳥島観測値 気象庁解析値
948.56 hPa (9時  前30分) 960 hPa (9時)

2002年11月24日(25号)
沖ノ鳥島観測値 気象庁解析値
931.54 hPa (1時半  前30分) 955 hPa (3時)
*沖ノ鳥島観測値は海抜26mの地点。 データ提供:海洋研究開発機構

上の2例は、海洋研究開発機構が独自に観測した沖ノ鳥島の現地気圧と、気象庁が解析した中心気圧を比べたものです。
いずれも中心から沖ノ鳥島までの距離は30km程度だったと推測されます。

海抜26mであることを差し引いて考えても、かなり低い観測値です。
さらに、02年25号では最大瞬間風速69.62m/s(4秒平均値)を観測しています。




図3の2003年15号は、1時間で気圧が10hPa下がり、暴風域の半径が50km広がっています。八丈島に接近したため、地上の観測データが入ったのにあわせて、解析値が急に大きく変化したものと思われます。

気象衛星の画像では、この時間、台風は衰える方向にあり、実際に急発達したとは考えにくい状況です。


4. 強く?解析していた例


図4の2004年23号では、半径240kmもあった暴風域が、1時間にして消えてしまっています。

暴風域がなくなったこと自体が間違いなのではなく、その前の21時の時点で240kmもの暴風域を設定していたことが、過大評価なのではないかと思われます。防災上強めに発表したりしていることも考えられますが、そうすると22時の時点で安心してしまうので、それが主たる理由ではないと考えられます。



5. まとめ
今回の調査では、どんな特徴の台風がどのように観測されているか、なぜ上記のような傾向が見られるのかついて、原因は特定できませんでした。

しかしながら、台風の中心気圧分布の変化や数々の事象から、現在のドボラック法の観測値は誤差が大きいのではないか?偏っているのではないか?と同時に、その傾向は近年大きくなってきているのではないか?ということを強く感じました。このままではデータの信用性が失われ、防災上でも大きな問題になることも考えられます。

したがって少なくとも、現在の観測が適切なのかの検証を行う必要があるのではないかと思います。そして、誤差を埋めるための何らかの作業をしていただきたいと思っています。その手段としては、補足的な方法を開発したり、誤差を測るため年に数回飛行機観測を行う、無人観測機の開発を急ぐなどが考えられると思います。


[ 参考文献・ホームページ ]
RSMC Tokyo - Typhoon Center
デジタル台風
高知大学 気象情報頁
台風の年間発生数及び台風の最低中心気圧の統計「1979 饒村 曜」
小さな目を持った台風の強さを、IR DVORAK法で決定する場合に生じる誤差について「1984 島田健司」
台風の存在分布と中心気圧の永年変化及び日本に接近した重大台風の現象(1951-1980)「1981 饒村 曜」
台風のCI数と中心気圧/最大風速の関係 「1991 木場博之・荻原武士・小佐野慎悟・明石秀平」

このほか、多数のホームページを情報収集のために参考にさせていただきました。
また、海洋研究開発機構の中埜様には、沖ノ鳥島データの件でお世話になりました。


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