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2005年1月19日更新





『流氷 白いオホーツクからの伝言』

著者・菊地慶一
発行所・株式会社響文社
初版・2004年1月30日
ISBN 4-87799-021-6
著者のホームページ:
菊地慶一のオホーツク流氷通信
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【本文より引用】
「幻氷−蜃気楼はお化け氷か」P49〜
「…蜃気楼現象はオホーツク海の水平線はるか、春先の淡い空と海の接点にほの白く見える。」「蜃気楼は流氷の海の大気が、温度差によって起きる光の屈折現象である。退去した流氷が沖合の海上で溶けはじめ、海の表面を冷たい水がおおう。すると海上にだけ冷たい空気のかたまりができレンズ状になる。そこに光が異常に屈折して沖合にある流氷を大きく変形させて見せるのである。」「今では蜃気楼と言わず幻氷と呼ばれるようになった。」

「 流氷の母アムール−母は偉大である」P54〜
「…なぜアムール川が流氷の母なのか。それはこれだけの大河が、これだけの陸水、すなわち真水を、しこたまオホーツク海に流入させているからである。(中略)その量はオホーツク海全体の水位を二十二センチも上げる量だというが、想像もつかない。」「真水が多く流入すると当然塩分が低くなるだろう。世界でいちばん南限の氷る海であるオホーツク海の秘密は、このことに大きな原因がある。オホーツク海という囲まれた海の表層に、二十五メートルから五十メートルほどの低塩分層がつくられているのが、この海の特徴である。ところで、真水と塩水では、氷結温度が違う。真水は氷点が零度だが海水はマイナス一・八度であり、オホーツク海はマイナス一・七度ほどで凍る。」「アムール川の源流はバイカル湖の東にあるヤブロノイ山脈、そこは中国の興安嶺の山裾から発する。そこからオホーツク海までの長さは四、四〇〇キロというから、網走から沖縄までのおよそ4倍の長さである。」

「流氷の発生−十一月のシャンタルスキー湾」P57〜
「…海水には塩分がふくまれているため、真水のように零度では凍らない。海水は三・三%の塩分を含んでいるため、マイナス一・八度が結氷温度である。ところがオホーツク海にはアムール川より大量の陸水が流れ込んでいるため、塩分が三・二%以下になるので、凍りやすい海となって流氷が誕生するとされている。」

「なぜオホーツク海は凍る−高感度のセンサー」P59〜
「オホーツク海は大きな盥(たらい)のような海だといわれる。(中略)面積が百六十万平方キロ、最大深度三千メートルもあるのだから、なかなか盥というイメージに結びつかないほど大きくて深い。しかし、(中略)平均深度は三百メートルだから、ほかの海から見て浅い海であることも事実である。盥の海に中国とロシア国境から四千四百メートルも流れてくるアムール川から、大量の陸水が流れこむ。三四三立方キロという真水は、なんとオホーツク海全体の水位を二十二センチも押し上げるほどの量である。真水は海水に塩分の薄い層を作り、太平洋から流れ込む海水より比重が軽いため、水深五十メートル以下にある塩分の濃い海水とはなかなか混じり合わない。そのためオホーツク海は水深五十メートルを境に、上が塩分の薄い海水、下は塩分の濃い海水と二重構造を持つことになる。」 「冬になるとシベリア大陸から吹き込む冷たい風が、オホーツク海の表面をぐんぐん冷やしていく。そこで表面の海水が海底の海水と入れ替わる対流現象が起きる。ところがオホーツク海の場合は二重構造になっているので、海面から五十メートルの深さまでの対流しか起きないので、急激に冷えこんで凍りやすい海になっていくのだ。」「北緯44度までの海が凍るオホーツク海は、海氷の南限といわれる。世界の海でオホーツク海より南の海では流氷は生まれない。」

「流氷到来の日−流氷は忍者か」P62〜
「…青黒い海が一夜明ければ氷原。氷原が一夜明ければ海、という変化はめずらしくない。」「流氷の速度は(中略)実際は時速一キロか二キロといわれる。だが速度は常に変化する。流氷を走らせているものは、風と海流と潮汐である。この力の条件が集まって、流氷を同じ方向に動かす場合、想像できないほどの速力になる。」

「目視の定点観測−気象台の測風塔」P77〜
「流氷が海岸からはじめて見えた日」これが流氷初日の定義である。」「しかも気象台 (引用者註:網走地方気象台)の二階屋上の測風塔という観測台の上から確認しなければならない。毎日午前十時の定時観測に、当番の職員が測風塔に上がる。ここは海抜五三・二メートルの地点で、(中略)気象台の測風塔で見えたものだけが、記録され発表され統計となる。人間の目で”目視観測”するのが、流氷観測なのである。」


著者は網走地方気象台の近くに在住して、今日まで35年にわたってオホーツク海の氷を眺めて続けている。流氷観測の第一人者であり、流氷をテーマにした著書が数多く、小学校の国語教科書にも「流氷の世界」という記述が掲載されている。日本児童文学者協会会長を勤める文筆家でもある。
この、『流氷』という本に書かれているテーマは、流氷の表情や、流氷観測の実体からはじまって流氷と観光、流氷と生き物など、広い範囲に及んでおり、実際の体験や観察に根ざした奥行きの深い知見が語られている。

ここに抜き書きした項目は、気象人としてとりわけ興味をそそられる箇所である。オホーツク海がなぜ結氷するのか、凍結するときの水温は何度ぐらいか、流氷の観測はどのようにして行われるのかなど、これから流氷のシーズンを迎えて、常識として身につけておけば流氷のニュースに味な見方もあるのではないか。(気象予報士・森川 達夫)

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