片山由紀子(ウェザーマップ・気象予報士) 資料提供:気象庁
2011年のさくら前線(沖縄・奄美を除く)は3月20日、静岡からスタートした。静岡が全国トップ(沖縄・奄美を除く)となるのは2008年以来、3年ぶり、3回目(2002年、2008年、2011年)のこと。
2011年の冬は、寒気が西回りで南下し、西日本と沖縄・奄美で寒い冬となった。12月末から1月にかけて、冬型の気圧配置が持続し、日本海側を中心に大雪となった。2月末には一時的に気温が高くなったが、3月は再び、寒気の南下が強まり、全国的に気温の低い状態が続いた。そのため、記録的な早咲きとなった2010年と比べると、松江で15日、高知と広島で12日、東京では6日遅くなるなど、関東から九州にかけては昨年より一週間から2週間程度、お花見シーズンが遅れた。
3月11日の東日本大震災と福島第一原発事故による計画停電の影響で、各地のさくらの名所では、さくら祭りの開催や夜桜を取りやめる所が相次いだ。また、弘前では被災地支援として、例年通り4月23日からさくら祭りを開催したが、観光客の出足は鈍く、期間中の人出は昨年と比べて60万人少ない201万人となった。
4月2日、全国のトップを切って福岡で満開となった。開花が全国で一番早かった静岡は4月3日に満開。低温の影響で、開花の進みが遅く、開花から満開まで15日もかかった。また、東京では4月6日と、2005年以来6年ぶりに満開のさくらの下での入学式となった。
全国的に見ても、3月から4月にかけての低温が響き、平年より3日から8日程度遅い満開であった。
今年は10年ぶりに平年値が更新された。新しい平年値の統計期間は1981年から2010年までである。さくらの開花日は、旧平年値(1971年~2000年)と比べると、多くの地点で2日から3日早くなった。そのため、東京の開花平年日は、鹿児島と同じ3月26日となった。
一方、鹿児島、名瀬、石垣島、南大東島ではこれまでと同じか、1日遅くなるなど、冬の気温が高くなったことで、さくらの休眠打破が遅くなっていることがうかがえる。冬の気温の上昇は、始めはさくらの早咲きにつながるが、それ以上の高温は逆にさくらの開花を遅らせてしまう。このまま温暖化が進行すると、九州や四国でもさくらの早咲きにブレーキがかかる可能性がある。
今年のさくら前線は3月20日、静岡をスタートし、約2か月かけて日本列島を北上したあと、5月19日に稚内に到着した。稚内が終着地になるのは2年連続である。
ただし、開花日の平年値をみると、稚内が5月14日に対して釧路は5月17日と日本最北端の稚内よりオホーツク海側の釧路の方が遅くなっている。そこで、1980年以降、稚内と釧路の開花日を比べてみた。
年 | 1980 | 1981 | 1982 | 1983 | 1984 | 1985 | 1986 | 1987 | 1988 | 1989 | 1990 | 1991 | 1992 | 1993 | 1994 | 1995 |
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稚内 | ◆ | ◆ | ▲ | ◆ | ||||||||||||
釧路 | ◆ | ◆ | ◆ | ◆ | ◆ | ◆ | ◆ | ◆ | ◆ | ◆ | ▲ | ◆ | ◆ | |||
年 | 1996 | 1997 | 1998 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | 2011 |
稚内 | ◆ | ◆ | ▲ | ▲ | ◆ | ◆ | ||||||||||
釧路 | ◆ | ◆ | ◆ | ◆ | ◆ | ◆ | ◆ | ◆ | ▲ | ◆ | ◆ | ▲ | ||||
◆のついている方が遅かった地点。▲は同時。 |
稚内と釧路の開花日を比べると、32年間で、稚内の方が遅かった年は7年、釧路の方が遅かった年は22年、同時に開花した年は3年である。つまり、平年値が示す通りに、釧路の方が開花が遅い結果となった。しかし、2000年代になり、さくら前線の終着地が稚内となる年が目立つようになった。
この理由について考察すると、
さくら前線の終着地が稚内となった年をみると、1994年と1980年を除いてオホーツク海の流氷終日が平年より早かった。特に、今年は観測史上最も早い3月12日に流氷終日となった。つまり、釧路では、オホーツク海の流氷期間が短くなると、気温が高くなりやすく、さくらの開花が早まるものと推測される。
さくらの開花に影響する4月の平均気温の平年値は、稚内で4.4℃、釧路で3.7℃である。しかし、旧平年値(1971年~2000年)と比べると、稚内は2.7℃の上昇に対して釧路は3.7℃も高くなっている。つまり、この10年間の影響で、稚内、釧路のいずれも気温が高くなっているが、特に釧路の方が著しい上昇を示している。
このまま温暖化が進行すると、近い将来、さくら前線の終着地が釧路から稚内に変わるかもしれない。